「田んぼダム」が全国各地で広がりをみせている。豪雨時の雨水を水田で受け止め、ゆっくり川へ流れるようにして水害を軽減する取り組みだ。本物のダムのように水位を上げ下げする実験まで始まった。すぐに効果を得やすい治水対策だが、下流に恩恵がある一方、ただ装置を取り付けるだけだと農家にはあまりメリットがない。同時に農業も支える仕組みづくりが普及のかぎになる。
スマート化で事前放流も?
一枚一枚の水田ごとに、太陽電池のついた筒状の装置がずらりと並んでいた。兵庫県たつの市で進む「スマート田んぼダム」の実証事業。自動的に給水や排水をする装置を取り付け、スマホの画面で遠隔操作する。
豪雨が近づくとゲートを順番に開けて水を抜き、貯水容量を増やす。雨の間はふだんより水位を高く保ち、ピークを過ぎてから排水する。まるで本物のダムのようだ。農家にとっても水管理を省力化でき、農業用水の無駄遣いを減らせる利点があるという。
ふだんの水管理は、それなりに手間がかかる。兼業の場合、朝に給水バルブを開けると夕方まで閉めに行けず、規定の水位に達しても「かけ流し」のままになってしまう。
「水管理の手間が省けるのは大きく、収量増にもつなげたい。これで災害も減らせるなら」。この水田で耕作する「たつのアグリ」の岸野昇社長はこう話した。
実証事業は農林水産省が今年度、全国8地区で取り組む。普通の田んぼダムや何もしない水田と比較し、手引づくりにつなげる。メーカーのクボタによると、装置本体は1基約12万円(取り付け費用を除く)で、1区画に給水用と排水用を設置。ほかに水位計、通信設備などが要る。農作業を自動化するスマート農業への流れから開発されたシステムという。
もっとも、スマート田んぼダムとしての効果やコストはまだ検証段階。本物のダムのように操作するなら、事前放流のタイミング、放流で被害が増したときの責任も詰めないといけない。急な豪雨には対処しきれず、事前放流が空振りになることも考えられる。
一般タイプはシンプル 20年近い歴史
一方、一般的な田んぼダムはもっとシンプルで安価だ。機械を使わず、自律的に機能を発揮するため操作もいらない。
ふだんより10センチほど高…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル